平成12年度プロポーザル

Webデータベース
 
東京大学大学院新領域創成科学研究科 
助教授  森下 真一

1.調査研究テーマ名

「Webデータベース」


2.そのテーマの戦略的意義/位置付け

平成10年度、11年度にデータマイニングに関する調査研究を行った。平成10年度は米国の主要研究機関における研究動向を調査し、VLDB, KDD などの国際会議を調査し、平成11年度も引き続き国際会議(ACM SIGMOD/PODS, ACM SIGKDD, ACM CIKM)を調査した。さらに、国内において国際的な評価を得ている研究者との議論を行い、我国においてデータマイニングを軸に研究開発をどのように進めたらよいか、方向性を模索した。その結果、平成12年3月のSSR2000 においては、データマイニング技術をWeb データベースの killer application として活用することを唱えた。このようにデータマイニングに関しては、第一段階として国際動向を調査し、第二段階として具体的な提言を行った。
データマイニングの国際動向を調査した過去2年間に、ACM SIGMOD/PODS のような重要国際会議で着実に研究が盛んになったのは、Webデータベースの研究である。SIGMOD においては全体の投稿数に占める割合が約1/3となり、データマイニング・OLAP・データウエアハウス等のデータベースから意思決定支援に関する研究分野と肩を並べるようになった。データマイニング技術は大きな研究分野として成熟する一方で、Webデータベースはインターネット市場の拡大とともに研究開発が急激に盛んになっている。
データマイニングとWebデータベースは一見異なる分野のように見受けられる。しかし両分野ともデータベース研究者がその先鞭を取っているという共通性がある。さらにデータマイニングの研究者が近年Webデータベースにシフトして活動を盛り上げているという状況がある。象徴的なイベントとして、2000年5月に DIMACS と IBM が共催するワークショップがある。
DIMACS/IBM Workshop on Data Mining in the Internet Age
May 1 - 2, 2000. IBM - Almaden, San Jose, California.
http://dimacs.rutgers.edu/Workshops/DataMining/
このワークショップは、DIMACS の支援のもと、Agrawal (IBM), Raghavan (IBM → Verity), Ullman (Stanford) らが企画し、Brin (google.com), Kleinberg (Cornell), Motwani(Stanford), Mannila(Nokia), Srikant (IBM), Chaudhuri(Microsoft), Suciu(Lucent AT&T) らデータマイニングとWebデータベース周辺で顕著な研究業績をあげ、市場をも開拓しつつある研究者の講演がある。データマイニングや先進的アルゴリズム技法をWeb データベースへ応用する研究について、様々な事例が報告され議論されるものと思われる。このように国際的な研究状況は常に動き、新陳代謝を繰り返している。そこでデータマイニングを中心とした研究動向調査は平成11年度で終了し、平成12年度は新たにWebデータベースにフォーカスした調査グループを申請する。


3.調査研究の概要

調査研究の内容は、1) 国際会議の調査、2) 国内の有力な研究者による招待講演、3) グループ内での討論と提言 とする。以下の国際会議の調査を考えている。
 ・ DIMACS/IBM Workshop on Data Mining in the Internet Age
 ・ ACM SIGMOD/PODS 2000
 ・ ACM SIGKDD 2000
招待講演は、検索エンジン、電子商取引、Webデータベースの各分野で活躍する研究者に依頼する予定である。


4.調査研究の進め方

国際的に活躍されている若手の研究者である有村博紀先生(九州大学大学院)、田島敬史先生(神戸大学大学院)に共同研究者をお願いした。グループが企画するワークショップを年3回程度開催したいと考えている。過去と同様に、グループ内の討論結果や、調査内容は、ホームページを通じてグループ内に周知する。

   申請者氏名  森下真一
   所属機関  東京大学大学院 新領域創成科学研究科
   略歴 1960年生. 1983年 東京大学理学部情報科学科卒.
   理学博士(東京大学).
   日本アイビーエム(株)、スタンフォード大学、東京大学医科学研究所を経て、
   1999年9月より東京大学大学院新領域創成科学研究科 助教授

 

モバイルコンピュータのインターフェース技術とアプリケーションに関する調査
 
筑波大学 電子・情報工学系
教授  田中 二郎

1.調査研究テーマ名

「モバイルコンピュータのインタフェース技術とアプリケーションに関する調査」


2.そのテーマの戦略的意義/位置付け

モバイルコンピューティングの分野は、生活の利便性を大きく向上させ、世の中を革新する可能性をもった技術として注目を浴びている。実用化を前提とした研究開発の動向を見極め、真に使いやすいシステムを実現すれば社会や経済の活性化に大きく貢献すると考えられる。本調査では、「モバイルコンピュータのインタフェース技術とアプリケーション」に関して調査を行い、モバイルコンピュータ、ウエアラブルコンピュータ、情報家電、街角端末などの未来動向とそのキラーアプケーションを明らかにすることを目的とする。家電は日本が得意な分野であり、モバイルコンピュータや情報家電などの分野で研究プロジェクトを推進することができれば、いよいよ米国主導が進むIT業界に対し、 日本発の技術で世界にインパクト/影響を与えることができる。


3.調査研究の概要

調査研究代表者の田中は、SSRで過去2年間にわたり、「次世代インタラクティブコンピューティングに関する調査」を行ってきた。初年度には、「次世代インタラクティブコンピューティング」に関して、国際会議、国内会議などにおける動向調査をおこなった。特に注目を集めている技術として、実世界指向インタフェース、3 次元視覚化技術、 Webの3つを取りあげた。また、2年目には、特に「実世界指向インタフェース」に重点をおいて調査を継続した。「実世界指向インタフェース」は、日本が積極的に世界的な成果を挙げている領域であり、今後の産業界への応用が期待できる分野である。
今年度は、これらの調査結果をふまえつつ、調査対象を「モバイルコンピュータのインタフェース技術とアプリケーション」に集中し、モバイルコンピュータ、ウエアラブルコンピュータ、情報家電、街角端末などの未来動向とそのキラーアプケーションを明らかにすることを目的とする。これらの分野は日本ががんばっている分野であり、 モバイル機器で場所依存情報を配るために、 携帯電話/PHS/GPS などを組み合わせた製品も出ていて、実験的なシステムとしても様々なものが現れている。また、街角業務端末(サイバー端末)に関しても、初期の街角業務端末が一段落し、次の世代の街角業務端末が期待されており、モバイルコンピューティングや実世界指向インタフェースの研究成果を活かせるフェーズにある。
また、最近、話題となりつつある、ユニバーサルデザイン、アクセシビリティのIT技術への影響に関してもとりあげたい。ユニバーサルデザインとは、高齢者や障害者、健常者が分け隔てなく利用できる「みんなのためのデザイン」のことであり、「体の不自由な人が使いやすいデザインは、だれにでもつかいやすいはず」との発想である。「共用品」とよばれることもあり、ここ数年の一つのトレンドになっている。また、アクセシビリティについては、米国のリハビリテーション法改正508 条の関連で話題となっており、アクセシビリティとは、誰も(障害者および健常者)が、情報機器を簡単に操作できるようにし、ネットワーク経由で情報を容易に入手、利用できるようにすることを意味する。米国では2000 年8月以降、蓮歩政府が調達する情報機器や、発信する情報についてアクセシビリティが義務づけられている。米国ではすでにアクセシブルでない銀行の ATMやインターネットプロバイダに訴訟がおこされている。
本調査においは、本テーマに関して、産学協同研究プロジェクトとして可能な研究候補テーマについても提案したい。すなわち、昨年にデータマイニング研究グループが行ったように「数人が1〜2年で成果を出せる研究テーマ」というように目標設定を行い、可能な研究テーマについて具体的に検討したい。


4.調査研究の進め方(共同研究者など)

具体的な進め方としては、毎月必ず委員会を開き、メンバー間で意見交換や調査報告を行なう委員会方式とする。委員会の成果については、速やかにWeb 上に活動や資料を会員に公開する。

[メンバー]
学側のメンバーとしては、以下のメンバーを想定している。
(すでにメンバーからは了解をもらっている。)
田中二郎 筑波大学 電子情報工学系 教授 (主査)
安村通晃 慶應義塾大学 環境情報学部 教授
椎尾一郎 玉川大学工学部 電子工学科 助教授
志築文太郎 筑波大学 電子情報工学系 助手

本年度の学側の委員構成の特徴としては、実際に調査に貢献できる実務本位の構成としたことである。
安村委員は、インタフェース分野の第一人者であり、モバイル関係でも実際、モバイル+場所依存情報提供の試みのためにデジカメと地図情報を組み合わせたモバイル情報提供システムを作っている。また、福祉関係のインタフェース動向についても強い。ソフトウェア科学会理事、WISSの主査を2 年間つとめている。日立のOBでもある。現在ヒューマンインタフェース学会理事。
椎尾委員は、現在、実世界指向インタフェース分野で第一人者となっている。CHI、UISTなどの国際会議でも活躍しており、 今回は、ソフトウェア科学会のチュートリアルで実世界指向に関しての講師にもなっている。 NEDOなどの研究テーマもこなしており、若手ではもっとも注目すべき人物の一人である。 IBM基礎研のOB。
志築委員は、 東工大の柴山研の出身であり、この4月から筑波大に着任した。東工大の若手の研究活動について特に良く知っている。インタフェース、認知科学に強い。

今回モバイル関係などで、ほかの委員を強化することも検討したが、孰考の末、委員構成は,上の 4名とし、機動力のある調査研究を実施したい。委員構成で足りない部分は、積極的に委員会にゲストを招聘し、ヒヤリングし、意見交換することで補いたい。
また、産側のメンバーには、まだ具体的な交渉は行っていないが、基本的には昨年度までの産側のメンバーの継続を希望している。しかしながら会社の都合等により変化が予想される。また、新たなメンバーを積極的に受け入れる方向である。

[ゲストの候補]
ウェアラブルというテーマなら、東大の廣瀬先生か、廣瀬研究室の広田先生を考えている。VR関係の研究者として知られているが、最近はウェアラブルの将来に注目して、ウェアラブルなVRデバイスの研究、ウェアラブルファッションショー、街路に電池内蔵の長距離RFIDタグを多数配置して情報配信する実験などにも関係されている。
また、ゲストには、ウェアラブルの大御所として、石井威望先生が考えられる。パソコンを衣服のように身につけるウェアラブルの時代が来て、パソコンが装着型になれば、それとデザイン的にも調和した衣服が必要になるとの趣旨で、文化服装学院などと共同でウェアラブルファッションショーやコンテストを企画している。
携帯端末にアランケイのOS Squeakをのせた、東工大佐々研の学生にもヒヤリングを行ってみたい。
また、モバイルコンピューティング技術としては、早稲田の中島達夫、 JAISTの渡部卓雄、筑波大の加藤、千葉といったメンバーを考えている。

 

動的ソフトウェア・サービス技術に関する調査研究
 
新潟工科大学情報電子工学科
教授  青山 幹雄

1.調査研究テーマ名

「動的ソフトウェア・サービス技術に関する調査研究」


2.テーマの戦略的位置付け

インターネットを基盤として,多様な電子商取引やASP(Application ServiceProvider)などの企業全体あるいは企業間にわたるサービスが提供されている.さらに,携帯電話などのモバイルインターネット環境で,モバイル性・個人性を活かしたサービスも提供されている.今,新たなソフトウェア・サービスをネットワーク上で迅速にかつ効率的に提供する必要がある.
このような背景から,1998年度に「次世代コンポーネントウェア」[1],1999年度に「次世代ソフトウェアアーキテクチャとアーキテクチャ指向ソフトウェア開発方法論」[2]をテーマとして調査,研究を行った.この結果,ネットワーク上で多様なサービスを提供するソフトウェア基盤技術,開発方法論,ネットワーク上のサービス流通技術など,従来のソフトウェアの枠組みを越えた新たなソフトウェア・サービス技術が戦略的な技術として明らかとなった[2].
特に,ネットワーク上ではソフトウェアを開発・所有することなく,ソフトウェアの提供するサービスやソリューションを動的に組み合せて利用できると期待されている.このような技術の枠組みを「動的ソフトウェア・サービス技術」と呼ぶことにする.本提案では,「動的ソフトウェア・サービス技術」の核技術として,下記のテーマを調査研究し,今後のソフトウェア・サービス開発・提供の戦略技術としての評価ならびに提言を行う.

1) 動的ソフトウェアアーキテクチャ・サービスアーキテクチャ:多様なサービスをユーザニーズの変化に応じてダイナミックに提供する仕組みの確立.従来のソフトウェアアーキテクチャより上位のサービスレベルのアーキテクチャと動的進化可能性,モバイル環境への対応.

2) ソフトウェア・サービス開発・提供方法論:ネットワーク上でソフトウェア・サービスを組み合せてより高度なソフトウェア・サービスを創出する方法論.

3) エンタープライズ・サービス/ソリューション統合:企業間,企業顧客間にまたがるサービスのビジネスモデルからソフトウェアアーキテクチャへ至るモデルの構築

4) ソフトウェア・サービス検証:ソフトウェア・サービスの品質などの要求を保証する設計・検証技術


3.調査研究の概要

ネットワークを中心とする企業情報処理システム,モバイル情報システムをターゲットとして,サービスレベルのアーキテクチャ,開発方法論,基盤環境を中心に調査研究を行う.

(1) 調査研究内容

1) 動的ソフトウェアアーキテクチャ・サービスアーキテクチャの調査研究
a) 狙い:ネットワーク上で多様なサービスを提供するため動的適応性を持つサービスレベルアーキテクチャとそれを支援するネットワーク拡張可能なソフトウェアアーキテクチャ[1].
b) 内容:サービスの定義,探索,利用などを実現する動的ソフトウェア・サービスアーキテクチャ,サービスのルックアップ,デリバリ,エージェントベースのモデルとコミュニケーション.

2) ソフトウェア・サービス開発・提供方法論の調査研究
a) 狙い:ビジネスモデルやビジネスアーキテクチャに基づきサービスを中心とするモデル化技術とサービスを組み合せてより高度なサービスを創出する方法論[5, 6].
b) 内容:サービスの構造化とモデル化,サービスとソフトウェアコンポーネント等とのマッピング,サービスの組み合せやネットワーク拡張性などの調査研究.例:サービスモデル,サービスインタフェース,サービス指向開発方法論,サービスインタラクション,サービストレーディング.

3) エンタープライズ・サービス/ソリューション統合の調査研究
a) 狙い:インターネット上での電子商取引などのネットワークへの広がりをもつア
プリケーションやサービスを連携・統合するための方法論と環境.
b) 内容:ネットワーク上での企業間サービス連携のための環境とプラットフォーム独立な情報パッケージ技術の調査研究.例:e-speakなどのサービス統合環境,ebXML,tpaML(Trading-Partner Agreement Markup Language)[7],SOAP (Simple Object Access Protocol)[4]などのビジネスプロトコル技術.

4) ソフトウェア・サービス検証
a) 狙い:ソフトウェア・サービスの品質などの要求を保証する設計・検証技術.
b) 内容:サービスの品質など非機能的特性のモデル化,サービス間の競合などを検証する方法などの調査研究.

(2) 調査研究の期待効果
1) 技術動向と研究開発の戦略提示:萌芽的・断片的な技術を体系的に調査,整理し,その技術動向と今後の研究開発戦略を明らかにする.

2) 成果の公開:インターネットによる情報の提示,調査研究委員会による月例の調査研究とワークショップ/シンポジウムの開催.


4.調査研究の進め方(共同研究者など)

(1) 調査研究体制
産学合同調査研究委員会の設置:下記の大学側共同研究者と産業側からの参加者による調査研究会を中核とする.
青山 幹雄(新潟工科大学),中所 武司(明治大学),中谷 多哉子(Slagoon),深澤良彰(早稲田大学),本位田 真一(情報学研究所),ほか
海外との連携:米国Carnegie Mellon大学SEI(Software Engineering Institute)など本分野における世界の先進的研究機関と連携して調査・研究を行う.

(2) 調査研究の方法
1) 国際会議参加/先進企業訪問による技術動向調査:ソフトウェア工学,オブジェクト指向,ソフトウェアアーキテクチャ,ソフトウェアコンポーネントに関する国際会議,ワークショップ,展示会のならびに先進研究機関・企業を訪問し,技術動向を調査する.
例:ICSE(International Conference on Software Engineering),OOPSLA(Object-Oriented
Programming Systems, Languages and Applications),EDOC(EnterpriseDistributed ObjectComputing),eBusiness Conf. & Expo,OOPSLAなど.

2) 集中検討会(ワークショップ)の開催:本分野における海外の先進的研究機関の研究者を招聘し,戦略的研究開発課題と技術を集中討議するワークショップを開催する.
招聘候補:米国Carnegie Mellon大学SEI(Software Engineering Institute),Illinois大学,IBM T. J. Watson Research Center,Microsoft Research,Sun Microsystemsなど.

3) 月例調査研究会:委員ならびにゲストスピーカによる技術調査・検討


参考資料
[1] 次世代コンポーネントウェア調査研究グループ,次世代コンポーネントウェアと今後のソフトウェア研究開発戦略,SSRシンポジウム資料,Feb. 1999.
[2] 次世代ソフトウェアアーキテクチャ調査研究グループ,次世代ソフトウェアアーキテクチャへの展望,SSR-2000シンポジウム資料,Mar. 2000.
[3] D. Amor, The E-business (R)Evolution, Prentice Hall PTR, 2000.
[4] D. Box, et al., Simple Object Access Protocol (SOAP) 1.1, W3C Note, May2000,
http://www.w3.org/TR/2000/NOTE-SOAP-20000508.
[5] D. F. D'Souza and A. C. Wills, Objects, Components, and Frameworks With UML: The Catalysis Approach, Addison-Wesley, 1999.
[6] M. Penker and H.-E. Eriksson, Business Modeling With UML: BusinessPatterns at Work, John Wiley & Sons, 2000.
[7] M. Sachs and J. Ibbotson, Electronic Trading-Partner Agreement forE-Commerce (tpaML), V.1.0.3, 2000, http://www.xml.org/tpaml/tpaspec.pdf.

 

エンタープライズセキュリティにおける研究動向
 
東京理科大学
教授  溝口 文雄

<提案書作成> 東京理科大学 溝口文雄、W.Wen
           平成11年度の提案の修正と研究項目の追加によるもの。

<調査委員会構成>
  溝口文雄 東京理科大学 委員長
  Wen Wu, 東京理科大学
  萩谷昌己、東京大学
  丸山宏 日本IBM基礎研究所
  菊池浩明 東海大学
  西山裕之 東京理科大学
  斎藤道隆 東京理科大学 


1.調査、研究の戦略的重要性

情報化社会という概念が定着した昨今、競争力の強化が欠かせない事業の企業経営をするために、インターネットの依存度が増加しているのは明らかな事実である。ビルゲイツも、最近出版した著書"The Digital Nerve System"の中で、企業におけるネットワークとインターネットの重要性について述べている。企業のネットワークの利用は、インターネットのそれをほぼ指すことになりつつもあるが、その安全性の確保はいまだ達成されていない。よって、ネットワークの利用における脅威は払拭しきれない状況にある。サンフランシスコにあるコンピュータセキュリティインスティテュートによると、アメリカにおける主要な163社の最近の調査では、部外者による侵入が30パーセントを越え、内部の者によるセキュリティ違反が55パーセントとなっている。エンタープライズセキュリティは、上記のような攻撃の発見、検出そして予防に関するシステマテイックな方法である。われわれの研究では、セキュリティインフラ、コンピュータ言語そして実用的なツールの最新技術の調査目的としている。エンタープライズセキュリティにおける最も関心の高いエリアは、セキュリティインフラ、Javaに関するセキュリティそしてエージェントベースEーコマースである。この調査結果をもとに、エンタープライズセキュリティの将来の動向を分析する。


2.調査、研究の計画概要

本調査と研究は、主にエンタープライズセキュリティのインフラとJavaに関するセキュリティ、さらに、侵入の検出や生物モデルのセキュリテイなどに焦点をおく。つまり、以下の項目に関して、調査、研究を行なう。

(1)エンタープライズセキュリティのインフラ
(2)Javaに関するセキュリティ
(3)モーバイルエージェントに関するセキュリティ
(4)侵入解析とそのビジュアル化
(5) 免疫モデルとセキュリテイ

本調査におけるこの5つの領域は、研究チームによって調査する予定である。SSRフォーラムの活動方針に従い、われわれは、今年度末までに5つのリポートを提供する。さらに、調査結果は、全てウェブ上に保存する。


3.調査、研究の概要

本調査、研究の目的は、最新のセキュリティ技術に関する情報を収集し、将来のこの分野の在り方を解析することである。また、セキュリティ技術の開発もしくは利用に関心のある企業に対し、戦略的な支援を提供する。以下に、概略を示す。

(1)エンタープライズセキュリティのインフラ
われわれは、以下の3項目に関して、エンタープライズセキュリティのインフ
ラの調査、研究を遂行する。
 * 最新のPKIに関する技術と運用
 * 分散アクセスコントロール技術
 * セキュリティプロトコルの検証

(2)Javaセキュリティ
 * JVMに関するセキュリティ
 * JINIに関するセキュリティ
 * Javaバイトコード検証

(3)電子商取引向けモーバイルエージェントセキュリティ
 * モーバイルエージェント技術
 * モーバイルエージェントシステムのセキュリティ問題
 * 電子商取引におけるセキュリティ


4.調査、研究のレポート

調査、研究に関する情報は、メールやウェブを通して収集し、供給する。オンラインでの調査、研究報告をするウェブのページは、東京理科大学情報メディアセンターによって保守管理を行なう予定である。また、メンバーはそのウェブを通して直接、情報を追加と回収が可能になる。このようなダイナミックなウェブベースによる情報供給を促進するために関連したソフトウェアも、開発する予定である。また、調査、研究毎に最終的な報告書を作成し、その報告会を執り行う予定である。


5. 調査、研究の構成員

調査、研究は、大学と企業の研究者によって構成されるメンバーにより遂行される。大学と企業のメンバーは、参加希望と取り、昨年のメンバーに増強する。

 

多言語情報と知識技術における言語処理と新技術の展望に関する調査
 
通信総合研究所
井佐原 均

 

<委員会の構成>
   代表者: 井佐原 均 (通信総合研究所)
   委員:  辻井 潤一 (東大)
        中川 裕志 (東大)
        奥村 学 (東工大)
        黒橋 禎夫 (京大)
        田中 久美子(東大)
        宇津呂 武仁(豊橋技科大)
        内元 清貴 (通信総合研究所)

<内容>

言語は、我々の認識や知識を表現するもっともVersatileなメディアである。とくに、既存のデータベースに蓄積されるものが、構造化や規格化が可能なものに限定されているのに対して、言語テキストでは、標準化されない多様な知識が表現されている。膨大なテキスト・データが蓄積されつつある現在、テキストで表現された知識をどのように構造化し、管理・共有していくかは大きな問題となっ ている。 また、現在ネットワークを介して急速に進展しつつあるグローバリゼーションは、多言語に渡るコミュニケーションを不可避なものとしており、この面からも、言語関連技術が急速な脚光を浴びつつある。

技術面では、
 (1) 言語の構造面に関する処理技術が成熟してきたこと、
 (2) 大量のテキスト・データを対象とするコーパス・ベースの技術が急激な発展を見せてきたこと、
に加えて、 技術を取り巻く環境面においても、
 (3) XMLを中心としたメタ・データの標準化作業、
 (4) 各種辞書・オントロジーベースの整備
が進展したことで、各種の言語処理技術の統合化が促進され、言語処理技術が将来のIT技術の中核になる可能性が強くなっている。
このようなことから、本調査研究では、以下の項目を調査する。

(あ) 従来の言語処理技術の限界を越える新しい言語処理技術の調査。
 言語処理技術のブレークスルーを実現する手法を探索し、深い言語理解に基づく翻訳システムなど、言語バリアの克服支援の可能性を探る。

(い) 言語処理技術に基づく知識獲得手法の調査。
 ウェブなど、ネットワーク上のテキスト情報を検索し、必要な情報を抽出する技術の調査を行う。

(う) 言語処理技術に基づくコミュニケーション支援技術の調査。
 高度情報社会において必須である、人間の知的活動を支援するモデルを提案し、そこに必要となる技術を調査する。

(え) 言語資源に関する調査。
 ここで調査の対象とする言語技術の基盤となる辞書・コーパスなどの言語資源について、その収集、整理、公開に関する諸問題を調査