平成11年度プロポーザル

データマイニングシステム実装技術
 
東京大学医科学研究所 
助教授  森下 真一

1.そのテーマの戦略的意義/位置付け

昨年の最終報告会での調査概要のように、ACM にデータマイニング関連の分科会SIGKDD が発足し、国際会議 KDD'98 は大盛況であり、マイクロソフト研究所のデータマイニンググループは増大した。データマイニング技術をデータベースシステムソフトウエアの主力商品として推進してゆく基調は、米国データベース産業においてここ数年は持続するものと考えられる。

我々は本調査で、データマイニング技術の鍵となるシステム実装技術のノウハウを参加企業間で共有することを第一の目標とする。また日本の大学で開発された技術を紹介し、起業化のネタとして提供することを模索することを第二の目標とする。技術的な「提言」から一歩進んだ具体的な「起業化」に結びつけることが産学協同の最終形であり、2年目の本調査ではそこへの糸口を見つけたい。

2.調査研究の概要

平成10年度に行った「データマイニング関係の調査」では、VLDB98・KDD98・FOCS98・PKDD98および米国における主要研究機関の調査を行った。その結果、明らかになったことは、データマイニング研究は米国において顕著であり、製品開発およびアカデミアでの研究も米国が中心となって進んでいることであった。残念ながら、ヨーロッパおよび日本における研究活動は、米国のような関心はまだなく様子を眺めている段階といえる。また、FOCSのような理論中心の会議でも、ほんの一部の研究者がある程度活動してはいるものの、主流と呼べるほどの勢力にはなっていない。

このような昨年度の調査状況を鑑み、平成11年度は海外調査はデータマイニング研究がもっともactive な会議として、ACM SIGMOD/PODS'99 http://www.research.att.com/conf/sigmod99/ 
ACM SIGKDD '99 http://msrconf.microsoft.com/CMT/default.asp を調査する。また海外の重要研究拠点で昨年度調査したMicrosoft,IBM,Stanford以外の拠点で、University of Wisconsin,CMU,University of Minnesota 等の訪問も考えている。
次に、チームメンバーの情報交換、とりわけ新しいシステム実装技術(最適化、並列化、視覚化)の調査習得を目的とするミニワークショップを2回開きたいと考えている。
ワークショップを通じて大学研究者と企業側が個別に共同研究を始められるまで発展できることを期待する。

3.調査研究の進め方(共同研究者など)

最終報告会の前にワークショップを2回企画する。ただ、国内における研究会との違いを出すために、各講演者に2時間ほど割り当て、大学のゼミ形式で実装技術を体得するワークショップにしたいと考えている。具体的には以下のようなワークショップを考えている
・ ACM SIGMOD/PODS, ACM SIGKDD の後に、話題になった秀逸な論文を数編選び理解する勉強会。
・ 並列処理技術、組合せ論的アルゴリズムの各分野から、国際的に活躍する大学および企業研究者、具体的には、喜連川優先生(東京大学生産技術研究所)、徳山豪先生(日本アイ・ビー・エム基礎研究所)、渡辺治先生(東京工業大学) らの招待講演を考えている。
・ 前回の最終報告会でも紹介したように、Microsoft や IBM のデータマイニングチームは統計学者と計算機科学者の共同作業の中から新たなデータマイニング手法を開発している。
そこで今回は統計数理研究所の土谷隆先生に委員として参加していただき、統計学と計算機システムの境界領域で今後どのような研究開発を進めるべきか議論してゆきたい。

最終報告会では、海外調査とワークショップの成果から「提言」をする。

 

次世代Interactive computingに関する調査
 
筑波大学 電子情報工学系
教授  田中 二郎

1.そのテーマの戦略的意義/位置付け

ヒューマンインタラクティブコンピューティングの分野は、生活の利便性を大きく向上させ、世の中を革新する可能性をもった技術として注目を浴びているが、実用レベルのものはまだ少なく、研究段階にとどまっているものが多い。
実用化を前提とした研究開発の動向を見極め、真に使いやすい機械を早急に実現することは、社会、経済のみならず、技術の活性化につながると考えられる。

昨年度は、「次世代 Interactive computingに関する動向調査」を行ない、特に注目をあつめている次世代 Interactive computingの技術として、実世界指向インタフェース、3次元視覚化技術、Webの3つを取りあげた。

今年は、この中でもとくに「実世界指向インタフェース」に重点をおいて調査を継続したい。「実世界指向インタフェース」は、日本が積極的に世界的な成果を挙げている領域であり、今後の産業界への応用が期待できる。

また、最近、生活の利便性を向上させる街角業務端末(サイバー端末)が急速に広がりつつある。コンビニでの情報端末をはじめとして、駅での案内端末、自治体での行政サービス端末など、その種類もどんどん増えている。お年よりから子供まで、様々な人が使う上記のサイバー端末では、実用レベルの使いやすいヒューマンインターフェイスが強く求められており、そのために今後、より使いやすい機械の操作や、個人個人に適応した情報の提供が重要になってくると思われる。

2.調査研究の概要

調査方法としては、 ACM の国際会議 CHI(Computer Human-Interaction)、UIST(User Interface Software and Technology)、 IEEE の VL(Visual Language)などに参加し、最新の動向を調査する。また、MITのメディアラボなどの研究サイトにおける最新の研究動向について調査する。同時に、海外のサイバー端末なども視野に入れ、技術動向の調査を行なう。

委員会では、まず、過去の事例を振り返り、本当に成功したインタフェース技術が何だったか?またそれは何故か? そうした事例研究から見てこれから我々の生活にインパクトを与えるインタフェース技術は何か、それは何故か、という点に関して議論を行う。

技術的な課題としては、「実世界指向インタフェース」の産業界への応用に関して、とくに対話型個人適応サイバー端末に焦点をあてる。対話型個人適応サイバー端末における人と機械のやりとりに関して、現実のシステムの問題点やそれらを解決するための技術に関して調査をおこなう。また、ヒューマンインタラクティブコンピューティング技術を評価する指標についても調査および検
討を行う。

また、「実世界指向インタフェース」の情報家電への応用の可能性について、具体例に基づいて事例研究を行なう(例:インターネット冷蔵庫)。

Webに関する話題についても、 個人情報の取り扱い(Privacy, User Analysis,Personalization)、 情報管理(Security, XML/RDF, Meta Data, Digital Objects)、 検索(Information Filtering, Information Categorization)、などの観点から調査を継続する。とくに、Personalizationに関しては、「個人適応の情報検索」を実現するための技術を事例ベースで検討する。

3.調査研究の進め方(共同研究者など)

1〜2カ月に一回委員会を開き、メンバー間で意見交換や調査報告を行なう。場合によってはゲストを呼びヒヤリングする。また昨年同様、年度の中間に公開のワークショップを開催する。委員会の成果については、速やかにWeb 上に活動や資料を会員に公開する。

今年は「実世界指向インタフェース」に関して、具体的な産学共同研究の基盤を固め、調査にメドをつけたい。科研費の調査研究に応募したり、国のプロジェクトの公募に申し込むなどの方法により、今後、調査結果を生かす方向を考えたい。

昨年度は、産業界のメンバーを加えることにより学側にとって良い刺激となった。今年度は、より実用的な視点から、具体例に基づいて事例研究を行なう際に、産側からの視点を重視したい。

 

次世代ソフトウェアアーキテクチャとアーキテクチャ指向ソフトウェア開発方法論
 
新潟工科大学情報電子工学科
教授  青山 幹雄

1.テーマの戦略的位置付け

インターネットを基盤として,電子商取引,サプライチェインマネジメント,知識管理などの新しいソフトウェアが開発されている.これらのソフトウェア開発では,次のようなソフトウェアの新しい構築,提供技術が求められている.
1) 企業間あるいは企業と顧客にまたがる新しいソフトウェアモデルの構築
2) 多様なサービスをユーザのニーズの変化に応じてダイナミックに提供
3) ネットワーク上でこれらのサービスを組み合せてより高度なサービスを創出
4) 高度で高品質なサービスを迅速に提供

このような背景のもと,1998年度に「次世代コンポーネントウェア」をテーマとして調査,研究を行った.この調査の結果,従来の個別的ソフトウェア技術の限界が明らかとなった.さらに,次の2つのソフトウェア開発技術の重要性が明らかとなった.
a) ネットワーク上で企業全体や企業間にまたがるサプライチェインなどのビジネス全体を支援できるソフトウェアアーキテクチャ
b) ネットワークに展開できるソフトウェアアーキテクチャ上で多様なコンポーネントやサービスを組み合せて迅速にサービスを提供できる開発技術

また,ビジネスの絶えざる変化と時間をベースとする競争の激化に伴い,アーキテクチャもビジネス形態や外部環境の変化に応じてダイナミックに対応できることが差別化の鍵となる.このような,動的な適応性を持つソフトウェアアーキテクチャをダイナミックソフトウェアアーキテクチャとして提案した[1].
ソフトウェアアーキテクチャとそのベースとなるオブジェクト指向による開発方法論の研究開発は1990年代になって活発になってきたが,実践の場に適用できるためには課題が多い.基幹業務ソフトウェア開発のためのソフトウェアアーキテクチャとアーキテクチャをベースとしてアプリケーションフレームワーク,ビジネスコンポーネント,パターンなどを組み合せたソフトウェア開発技術は研究段階にある.これらは今後のソフトウェア開発,利用の中核となる戦略的技術として期待できる.

2.調査研究の概要

ネットワークを中心とする今後の企業情報処理システムをターゲットとして,ビジネスプロセスから設計に至る開発方法論をアーキテクチャ技術を軸として調査研究する.

(1) 調査研究内容
1) ダイナミックソフトウェアアーキテクチャの調査研究:
a) 狙い:変化に対応できるソフトウェアアーキテクチャとして,動的適応性を持つネットワーク拡張可能なソフトウェアアーキテクチャに着目する.
b) 内容:ネットワーク拡張可能なソフトウェアアーキテクチャの要件,構造,コンポーネントやサービスを組み合せることができる組み合せ可能性(Composability)やネットワーク拡張可能性,アーキテクチャマッチングなどのソフトウェアアーキテクチャの基礎技術とこれをベースとするサービストレーディング,プロダクトラインソフトウェアアーキテクチャ[2]などの応用技術の調査研究.
2) アーキテクチャ中心のオブジェクト指向ソフトウェア開発方法論の調査研究:
a) 狙い:オブジェクト指向分析・設計方法論における要求と実現との間のギャップを埋める方法として,ユースケース,フレームワーク,パターンなどの抽象度の階層に応じてアーキテクチャや設計ノウハウを蓄積できる枠組みをガイドとして利用する.
b) 内容:ユースケース,フレームワーク,パターンを利用し,これをガイドとして分析・設計を行うアーキテクチャ中心のオブジェクト指向分析・設計方法論の調査研究[3].
3) ネットワーク型ビジネスプロセスのモデリング方法論の調査研究:
a) 狙い:ネットワーク上で企業間(B-to-B)や企業と顧客間(B-to-C)でサプライチェイン,デザインチェイン,バリューチェインなどのプロセスのチェイン(連鎖)を中心とする連鎖型プロセスモデル.
b) 内容:情報の連鎖を中心とするプロセスモデリング,IPP(Inter Process Planning)[4],制約解消理論(Theory of Constraints)[5]などのビジネスプロセスモデリング,プロセス最適化の新しい方法論の調査研究 .
4) トラステッドコンポーネント技術の調査研究:
a) 狙い:業務アプリケーションや組込みソフトウェアにソフトウェアコンポーネントあるいはIPを適用するために必要になるコンポーネントの高信頼度の実現.
b) 内容:コンポーネントの挙動やアスペクトとも呼ぶ品質などの非機能的特性の情報を設計するアスペクト指向設計方法論,コンポーネントのインタフェースを通してアスペクトを提供する方法などの高品質コンポーネント開発技術の調査研究[6].

(2) 調査研究の期待効果
1) 技術動向と研究開発の戦略提示:多様で断片的,萌芽的な技術を体系的に調査,整理し,その技術動向と今後の研究開発戦略を明らかにする
2) 成果の公開:インターネットによる情報の提示,調査研究委員会による月例の調査研究とワークショップ/シンポジウムの開催

3.調査研究の進め方(共同研究者など)

(1) 調査研究体制
産学合同調査研究委員会の設置:大学側共同研究者と産業側からの参加者による調査研究会を中核とする.
海外との連携:米国Carnegie Mellon大学SEI(Software Engineering Institute)など本分野における世界の先進的研究機関と連携して調査・研究を行う.

(2) 調査研究の方法
1) 国際会議参加/先進企業訪問による技術動向調査:ソフトウェアアーキテクチャ,コンポーネント指向に関する新しい国際会議,ワークショップ,展示会のならびに先進研究機関や企業を訪問し,技術動向を調査する.
例:ICSE/Workshop on CBSE(Component-Based Software Engineering),EDOC(Enterprise Distributed Object Computing),Component Development'99,eBusiness Conf.& Expo,OOPSLA等
2) 集中検討会(ワークショップ)の開催:本分野における海外の先進的研究機関の研究者を招聘し,戦略的研究開発課題と技術を集中討議するワークショップを開催する.
招聘候補:米国Carnegie Mellon大学SEI(Software Engineering Institute),Illinois大学, IBM T. J. Watson Research Center,Microsoft Research,Sun Microsystems等
3) 月例調査研究会:委員ならびにゲストスピーカによる技術調査・検討

 

エンタープライズセキュリティにおける実際とトレンド
 
東京理科大学
助教授  Wu Wen

1.調査、研究の戦略的重要性

情報化社会という概念が定着した昨今、競争力の強化が欠かせない事業の企業経営をするために、インターネットの依存度が増加しているのは明らかな事実である。ビルゲイツも、最近出版した著書"The Digital Nerve System"の中で、企業におけるネットワークとインターネットの重要性について述べている。企業のネットワークの利用は、インターネットのそれをほぼ指すことになりつつもあるが、その安全性の確保はいまだ達成されていない。よって、ネットワークの利用における脅威は払拭しきれない状況にある。

サンフランシスコにあるコンピュータセキュリティインスティテュートによると、アメリカにおける主要な163社の最近の調査では、部外者による侵入が30パーセントを越え、内部の者によるセキュリティ違反が55パーセントとなっている。エンタープライズセキュリティは、上記のような攻撃の発見、縮小そして予防に関するシステマテイックな方法である。われわれの研究では、セキュ
リティインフラ、コンピュータ言語そして実用的なツールの最新技術の調査を目的としている。エンタープライズセキュリティにおける最も関心の高いエリアは、セキュリティインフラ、ジャワに関するセキュリティそしてエージェントベースEーコマースである。この調査結果を元に、エンタープライズセキュリティの将来のトレンドを分析することも計画している。

2.調査、研究の計画概要

本調査と研究は、主にエンタープライズセキュリティのインフラとジャワに関するセキュリティに焦点をおく。つまり、以下の項目に関して、調査、研究を行なう。

(1)エンタープライズセキュリティのインフラ
(2)ジャワに関するセキュリティ
(3)モーバイルエージェントに関するセキュリティ

本調査におけるこの3つの領域は、研究チームによって管理運営する予定である。SSRフォーラムの活動方針に従い、われわれは、今年度末までに3つのリポートを提供する。さらに、調査結果は、全てウェブ上に保存する。

3.調査、研究の概要

本調査、研究の目的は、最新のセキュリティ技術に関する情報を収集し、将来のこの分野の在り方を解析することである。また、セキュリティ技術の開発もしくは利用に関心のある企業に対し、戦略的な支援を提供する。以下に、概略を示す。

(1)エンタープライズセキュリティのインフラ
われわれは、以下の3項目に関して、エンタープライズセキュリティのインフラの調査、研究を遂行する。
* 最新のPKIに関する技術と運用
* 分散アクセスコントロール技術
* セキュリティプロトコルの検証

(2)ジャワセキュリティ
* JVMに関するセキュリティ
* JINIに関するセキュリティ
* ジャワバイトコード検証

(3)電子商取引向けモーバイルエージェントセキュリティ
* モーバイルエージェント技術
* モーバイルエージェントシステムのセキュリティ問題
* 電子商取引におけるセキュリティ

4.調査、研究のレポート

調査、研究に関する情報は、メールやウェブを通して収集し、供給する。オンラインでの調査、研究報告をするウェブのページは、東京理科大学情報メディアセンターによって保守管理を行なう予定である。また、メンバーはそのウェブを通して直接、情報を追加と回収が可能になる。このようなダイナミックなウェブベースによる情報供給を促進するために関連したソフトウェアも、開発する予定である。また、調査、研究毎に最終的な報告書を作成し、その報告会を執り行う予定である。