産学連携によるイノベーションへの期待

通商産業省 産業政策局
大学等連携推進室長 喜多見 淳一

  1. 何故、いま産学連携か

    ◇右肩上がりの経済成長の中で有効に機能してきた我が国の経済社会システムは、経済のグローバル化や高齢化社会の到来等の環境変化の中で、既存産業の成熟化、新規産業の展開の遅れ、産業空洞化の懸念等大きな曲がり角に直面している。
    今後、生産年齢人口の減少や貯蓄率の低下による「労働」と「資本」の両面の制約が懸念される中で、活力あふれる経済社会を実現していくためには、これらの制約を「技術」によって克服しつつ、新技術を活用した新規産業の創出、新しい財・サービスの社会への普及を通じた経済社会の変革 (イノベーション) を促進していくことが重要である。

    ◇このためには、「研究開発 (技術の創造) 」のみならず、「技術の普及」、「社会ニーズのフィードバック」を これまで以上に重視するとともに、創造的活動に対して必要な情報・知識を提供する「知識基盤」、様々な能力を持った創造的活動の担い手を生み出す「人材基盤」等の各種基盤を整備していくことが必要である。

    ◇かかる観点から、我が国の技術力・創造力に関する弱みを補い、さらに人材供給の量的制約を個々人の質の向上で克服していくためには、産学連携により、大学と企業の間のシーズ、ニーズの情報ギャップを埋め、大学の持つ研究機能及び人材育成機能を向上させるとともに、その成果を経済社会において活用していくことが重要である。

  2. 研究開発面における産学連携への期待

    ◇我が国の大学は、我が国の研究者の 1/3 強の 24 万人が在籍し、我が国の研究資金の 2 割強に当たる約 3 兆円を使用する等、多くの研究リソースが集中しており、大きな研究ポテンシャルを有しているが、これまでそのリソースが社会において十分に活用されてきたとは言い難い。

    ◇大学における研究成果の産業界への移転は、新規産業創出や技術水準の向上による既存産業の高度化という観点から極めて重要であり、大学自らが主体的に行うシステム作りを支援するため、昨年「大学等技術移転促進法」を制定し、12 月には 4 つの TLO (技術移転機関) の事業計画を承認した。今後は、大学教官の兼業規制の緩和等、大学の技術による新規産業の創出のための取り組みを強化する必要がある。

    ◇また、企業と大学の連携による研究開発は、大学の独創的な研究シーズと企業のニーズを的確に結びつけ、新たな技術の事業化、新規産業育成等の経済フロンティアの拡大する原動力ともなる。こうした動きを加速化するためにも、大学におけるリエゾン機能の充実、透明な契約に基づくビジネスルールへの対応、論文重視の大学教官の評価の見直し等が更に進むことが期待される。

  3. 人材育成面における産学連携への期待

    ◇我が国の大学は年間 50 万人の学部卒を輩出する重要な人材基盤であるが、これまでは経済社会の人材育成ニーズに十分対応し切れていないとの評価が強い。

    その背景としては、(1) 学部・学科の「縦割り」が強く、学際領域の教育・研究が著しく脆弱。(2) 実社会、産業等のニーズを反映した教育・研究が必要な工学分野等においても、かかるニーズへの対応が不十分。(3) 閉鎖性が強く、実社会との人的交流や海外研究者・留学生等の受入れも不活発。(4) 柔軟性に欠ける規制体系の下、「横並び」体質が強く、人事・予算等の取扱いも著しく硬直的。(5) 産業界側も大学から輩出される人材に対する真のニーズを的確に大学に伝えていない等があげられる。

    ◇今後は、企業が求める教育内容や人材像についての具体的なメッセージの発信、大学におけるカリキュラムの改善を通じた教育の質の向上、学生の職業意識の向上等を図るため、情報分野も含めて工学教育に対するアクレディテーション (外部認定) の導入を進めるとともに、インターンシップ (学生の就業体験) を一層展開していくべきである。また、理科系・文化系双方の知識・能力を持つ人材の育成するため、起業家教育、技術経営、政策科学、金融工学等多様な教育の場が提供される必要がある。

  4. 結言

    ◇このように、産学連携について解決すべき課題が明らかになるとともに、我が国の産学連携を巡る環境は急速に変化しつつある。
    大学、産業界、政府がそれぞれの役割を認識し、それらを果たすことにより積極的に産学連携を更に推し進め、イノベーティブな社会を創造する基盤を形成していくことが期待される。