次世代インタラクティブコンピューティング

田中二郎 (筑波大学 電子情報工学系)

  1. はじめに

    従来、ユーザインタフェースというと、コンピュータサイエンス分野というより、認知科学、心理学、医学、人間工学などと機械工学、制御工学などの境界領域と解釈する向きが多かった。しかしながら、最近、これらの分野においてソフトウェアの占める重要性が、非常に増しており、今日「ユーザインタフェースとはソフトウェアである」といっても過言ではない。本報告では、「ユーザインタフェースとはソフトウェアである」という観点からインタラクティブコンピューティングの最近の動向について述べる。

  2. ユーザインタフェースの基本コンセプト

    日本にはユーザインタフェースの良い教科書は見当たらないが、英語では次々にユーザインタフェースの良い教科書が出版されている。 たとえば、Dan R. Olsen, Jr.によって書かれた "Developing User Interfaces" は、実際にユーザインタフェースのソフトウェアを書く人を対象とした本である。本では、 ユーザインタフェース (UI) の基本コンセプトとして、Graphics, Event Handling, GUI (Widgets), Shape Geometry などを挙げ、そのそれぞれについて詳細に説明を行なっている。

    ヒューマンインタフェースの関連国際会議としては、ACM の CHI (Computer Human Interaction)、UIST (User Interface Software and Technology)、IEEE の VL (Visual Language) などが代表的である。

    また、国内会議としては、日本ソフトウェア科学会のインタラクティブシステムとソフトウェア研究会が主催するWISS(インタラクティブシステムとソフトウェアに関するワークショップ)が著名である。 これらはいずれもユーザインタフェースのソフトウェア的な側面、技術的な側面を強調したものとなっている。

  3. 次世代インタラクティブコンピューティングに関する調査

    昨年から次世代インタラクティブコンピューティングに関する調査がスタートしている。委員は、学側の委員として、

    田中二郎(筑波大学電子・情報工学系)
    松岡聡 (東京工業大学大学院情報理工学研究科)
    来住伸子(津田塾大学)

    の 3 名、産側からは

    伊知地宏 (富士ゼロックス 総合研究所)
    長岡宏 (オムロン IT 研究所)
    広明敏彦 (NEC ヒューマンメディア研究所)
    矢島敬士 (日立製作所 システム開発研究所)

    の 4 名、また、プロジェクトのモニターには

    溝口文雄 (東京理科大学 情報メディアセンター長)

    が就任している。

    今年度に 4 回委員会を開催した。

    また、「次世代 Interactive Computing ワークショップ 」を 11/30 に東大の山上会舘で開催した。ペン入力、視覚化技術、Web 応用技術、実世界指向インタフェース、XML、ゲームソフトウェアなどに関して委員やゲストから研究発表をお願いし、それに基づき討論を行なった。 なお、 これらの委員会の議事録や使われた PowerPoint 資料などについては、すでに Web 化をおこなってあり、すべての資料が

    http://celes.softlab.is.tsukuba.ac.jp/~ssr/

    からリンクされている。議事録と PowerPoint 資料についてはパスワード付の公開としている。なお、これらについては、今後 SSR 全体のホームページからリンクするようにする予定である。

  4. インタラクティブコンピューティング研究の世界動向

    ヒューマンインタフェースとは文化であり、Xerox PARC や MIT メディアラボが世界の UI 研究をリードする。ここでは、昨年の夏、日本で開催した APCHI (Asia Pacific Computer Human Interaction) の招待講演者である Alan Kay (Disney) や Hiroshi Ishii (MIT Media Lab) の講演内容について紹介する。Alan Kay は、Squeak というかっての Smalltalk を発展させたシステムの研究を行なっており、Hiroshi Ishii は、Tangible Bits というコンセプト、すなわち実体があり触れて知覚できるオンラインデジタル情報を提唱している。

    また、ACM の CHI (Computer Human Interaction)、UIST (User Interface Software and Technology)、 IEEE の VL (Visual Language) などの国際会議に見るインタラクティブコンピューティング研究の世界動向について説明する。こうした国際会議から、携帯端末や Web への着目、GUI から Tangible Bits に代表される実世界指向インタフェースへのシフト、アートへの接近、3 次元 GUI の現実化などの傾向を見てとる事ができる。反面、認知科学やユーザビリティなどに関しては目立ったブレークスルーがなく、ソフトウェア工学との連携についても以前ほど騒がれなくなってきている。

    また、いわゆる旬の研究として、日本人が強い実世界指向インタフェースと我々の研究室で研究を行なっている 3 次元インタフェースについて紹介する。

  5. 次世代インタラクティブコンピューティングにむけて

    次世代インタラクティブコンピューティングの課題として、いわゆる賢い UI が可能かどうかについて論じる。インタラクティブコンピューティングの未来像をテレビゲームのゲーム機やそのソフトにみるとすると、次世代インタラクティブコンピューティングは、既存のイメージとはかなり異なったものとなるであろう。次世代の Intimate Computer においては、ハイテクとローテクが同居し、機構的も退化する部分が出るだろう。3 次元はあたりまえになり、 実世界と計算機の中のデジタル世界が融合すると思われる。Computer のコンピュテーションパワーの殆んどはユーザインタフェース処理に使われるようになると思われる。