平成14年度プロポーザル

A.戦略的調査研究部門

A-1 Pervasive Computingのための基盤ソフトウェアに関する調査研究
  筑波大学  加藤 和彦
A-2 グリッド&P2P コンピューティングに関する調査研究
  東京工業大学  松岡 聡
A-3 個人プロファイルに基づくセキュリティに関する調査研究
  東京理科大学  半谷 精一郎

B.国家プロジェクト提案部門

B-1 環境情報ネットワークリンクと環境情報空間の構築
  東京大学  小林 郁太郎
B-2 モバイル/ユビキタスコンピューティングのための表示技術
  筑波大学  田中 二郎

 

 

A. 戦略的調査研究部門

 

A-1:
 Pervasive Computingのための基盤ソフトウェアに関する調査研究 
 
筑波大学 電子・情報工学系
助教授  加藤 和彦

1.プロジェクト申請予定のテーマ

Pervasive Computingのための基盤ソフトウェアに関する調査研究」


2.そのテーマの戦略的意義/位置付け

情報処理機能と通信機能を有する機器(しばしば小型もしくは超小型)が社会や人間 生活の隅々にまで浸透しつつある.そのような機器は,それが置かれたり,埋め込ま れたり,あるいは携帯されたりするのに適した千差万別の形状と機能を有する.その ような機器を用いたcomputingPervasive Computingと総称され(Ubiquitous Computingと呼ばれることもある),現在,世界の学界・産業界において高い関心を集 めている.その一端は, 2002年春にIEEEよりPervasive Computingマガジンが創刊さ れたことや,2002年8月に開催されるPervasive Computingに関する第1回国際会議(International Conference on Pervasive Computing)に採択予定件数の約8倍もの論文投稿があったことからも,窺うことが出来る. Pervasive Computing分野では,今までは「周辺機器」と呼ばれていた入出力機器やセ ンサー機器が中心的な役割を果たす.幸い日本の産業界は,それらの分野において高 い国際的競争力を有する.また,インターネット接続機能(いわゆるiモード)付き携 帯電話の急激で高い普及率に見られるように,一般国民も高い関心を有していると考 えられる. Pervasive Computing分野はまだ歴史が浅く,しかも前述のように,日本の産業界が高 い潜在的技術力を有していると考えられる分野である.現在はちょうど,この分野が 新しい分野として確立を果たそうとしている時期に当たると考えられ,この時期に同 分野における産学間の人的交流,情報交換,動向調査を行うための調査研究グループ を立ち上げることは大変に意義深いことと考えられる. サーバー型計算機やデスクトップ計算機の分野は,基盤ソフトウェアの研究開発の歴 史が長く,既にデファクトスタンダードが確立されていたり,あるいは,発展中のロー ドマップが米国の産学を中心として構成されたコンソーシアムによって握られてしま っているものが多いのが現状である.それに対して,Pervasive Computing分野の基盤 ソフトウェアは,デファクトスタンダードたり得るものが未だ存在しておらず,現在 は問題分析のフェーズにあると考えられる.我が国がこの分野で有する産学のポテン シャルを動員すれば,将来的にデファクトスタンダードと成りうる基盤ソフトウェア の開発が十分に可能であると考えられる. 同分野に関する関心は学界・産業界の双方で高まっているものの,これまでは,両者 の間の情報交換や人的交流は盛んとは言えなかったのが現状である.学界は,近未来 を見据えた系統的なシステム設計を得意とするが,社会的の実際的なニーズや,製品 化に伴って発生するリアルな問題を把握しにくい.産業界は,リアルな問題への対処 に追われ,長期的な観点に立ったシステム設計を行う機会を持ちにくい. 本調査研究は,Pervasive Computing分野において第一線レベルの研究を目指す産学の 研究者が,情報交換,人的交流,動向調査を行ない,問題分析,研究テーマ探索,研 究アプローチの策定等に関して議論・協調し合う場を提供していくことを目的とする. また,省庁等が公募する国家プロジェクトや競争的外部資金に関しても,互いの連携 を図りながら,企画立案に関する議論の場を提供したいと考えている. SSRの協賛企業はこの方面において,日本をリードする企業が集結しており,本提案を 行う絶好の機会であると考えられる.


3.調査研究の概要

同分野におけるオペレーティング・システム,ミドルウェア,ネットワークソフト ウェア,プログラミング環境,アプリケーション構築フレームワーク等の基盤ソフト ウェア技術に関する調査を行いながら,今後の研究の方向性について検討する. 具体的には以下のような項目について調査することを予定している. Pervasive ComputingのためのOS・ミドルウェア技術:コンテキストアウェア技術, コンポーネント技術,ソフトウェア配信技術 Pervasive Computingのためのネットワーク技術:識別子割当て,名前付け,ノー ドの電力制御,ノードの協調,ノードの階層化,ルーティング,情報配布,高セキュ リティ配送,アドホックネットワーク Embedded Linux 情報家電技術 ウェアラブルシステム Pervasive 2002,UBICOM'2002,IEEE PERCOMP'2003等の国際会議動向 これら以外にも企業側参加者に提供して頂ける話題や興味に応じて,調査研究を進め ていきたいと考えている.


4.調査研究の進め方(共同研究者など)

大学側の調査グループ構成メンバーは以下のようである。

主査         加藤 和彦 筑波大学 電子・情報工学系 助教授
メンバー(大学側) 大山 恵弘 科学技術振興事業団 研究員
            河口 信夫 名古屋大学 情報連携基盤センター 助教授
            塚本 昌彦 大阪大学大学院 情報科学研究科 助教授
            徳田 英幸 慶應義塾大学 環境情報学部 教授
            戸辺 義人 東京電機大学 工学部 助教授
            中島 達夫 早稲田大学 理工学部 教授
            佐藤 一郎 国立情報学研究所 助教授

上記メンバーと企業側メンバーが合同して,3で述べた調査研究を進める.2ヶ月に1回程度の研究調査会を開催することを予定している.






A-2:
 グリッド&P2P コンピューティングに関する調査研究 
 
東京工業大学 学術国際情報センター
教授  松岡 聡

1.調査研究のテーマ

グリッド&P2P コンピューティングに関する調査研究


2.そのテーマの戦略的意義/位置付け

従来のインターネットでは、電子メール・遠隔会議・グループウェア(CSCW)などの 通信媒体として、あるいはWebGopher・ftpアーカイブ・netnewsなどの広 域データベースとしての利用がされているが、一般の計算資源のインフラとしては力 不足であり、標準的にはAppletなどの小規模の手段を提供しているに過ぎない。しか し、インターネットでの計算基盤の構築法として、スパコンなどを広帯域ネットワー クで接続するGlobal ComputingMetacomputingなどの名称の研究が90年代から行われ るようになった。これらは1997年にIan Fosterらによりグリッドコンピューティング (”The Grid”)と総括的に命名され、インターネット上の新たな分散コンピューティ ング基盤として注目されはじめた。同時期に、Peer-To-PeerP2P computingという 名称で、SETI@homeなどに代表されるインターネットの端末(peer)資源を直接接続する 計算環境構築技術の研究が盛んになり、近年ではこれらもグリッドインフラの一部と してみなされるようになった。現在では、グリッドは単に大規模なスパコンを接続し たインフラとしてのみではなく、ネットワーク上のPeerの間を、仮想組織を跨って接 続した仮想計算環境を構築する基本技術として、一般的なビジネスコンピューティン グを含む新たな分散計算環境の構築方として着目されている。
従来から分散コンピューティングは盛んに研究されてきたが、その技術としては、リ モートマシンへのlogiin技術であるtelnetrloginssh1980年代に研究された分散 OS技術、近年の HTTPHTMLCGIなどの従来のWeb技術、ORBObject Request Broker)、CORBADCOMなどの分散オブジェクト・分散コンポーネント技術、Plangen tAgletsVoyagerなどの分散Agent技術、SOAPWSDLUDDI.NETなどのXMLを基盤 とするWeb Service技術などさまざまなものが存在する。しかしながら、これらはグリ ッドにおける組織間に跨った仮想計算機構築に必要なセキュリティ、資源発見・配分 法、高性能・高スループット性などの技術的な要請を必ずしも備えていないため(部分 的には可能だが)そのまま利用することはできず、グリッド技術として新たな研究開発 が欧米では盛んになっている。近年では、グリッドで最も用いられている下位ミドル ウェアであるGlobusの研究グループと、IBMにより共同提案されたOGSAOpen Grid Services Architecture)により、グリッドとWeb Serviceとの統合がはかられており、 ビジネスコンピューティング的にも高く注目されている。また、P2Pの計算基盤も「デ スクトップグリッド」の名称で、エンタープライズのデスクトップの計算パワーを集 約する技術として、Entropia社など幾つかの商用システムが提案されている。
しかしながら、わが国のインターネット基盤の研究は、主に携帯や家電ネットワーク・ 従来型のE-Commerceのフレームワークなどに代表されるコンシューマ・マルチメディ ア・モバイル系が中心であり、一部の研究グループによる基礎研究は初期から行われ ていたものの、グリッドへの本格的な取り組みは欧米に比較して遅れてしまったのが 現状である。さらには、グリッドは「スーパコンピュータを高速ネットワークで接続 したものが(正に)グリッドである」といった誤った認識が横行し、OGSAやデスクトッ プグリッドなどのビジネスエンタープライズ系における技術的な取り組みが大幅に遅 れてしまった。そこで、これらの現状を企業が正確に把握し、わが国におけるグリッ ド、特にビジネス系エンタープライズコンピューティングのR&Dの取り組みにつなげる ことが急務である。


3.調査研究の概要

本調査では、エンタープライズにおけるグリッドのR&Dを促進するために、現状の大規 模なグリッドインフラ構築の欧米の代表的なプロジェクト、並びにグリッドの商用化 に関する欧米のベンチャー会社の現状把握などを行う。具体的には、以下の項目を中 心に調査を行う:
(1)大規模グリッドインフラのアーキテクチャ・構築・運用 (2)テラ~ペタバイトのデータ処理やデータベース統合をグリッド上で行うデータグリッド (3)グリッドにおけるセキュリティ・ディペンダビリティ (4)デスクトップグリッド(P2Pグリッド)およびそのアプリケーション (5)グリッドのポータル化・ASP的利用 (6)OGSAおよびWeb Servicesとの統合、ビジネスコンピューティングにおけるグリッ ドの今後
本調査におけるこれら6の項目は、調査チームによって調査する予定であり、国内・海 外における主要なグリッドの研究開発を行っている大学や研究所、ならびにグリッド のベンチャー企業などを中心として事例を収集し、最新のグリッド技術(P2Pを含む) 関する調査を行う。また、今後のグリッドのエンタープライズコンピューティングへ の展開についての調査研究も行う。例えば、米国においては、NSFの大規模グリッドイ ンフラ構築プロジェクトであるTeraGridがあるが、その中心的な存在であるNSFの二大 計算センターである米国サンディエゴのSDSCおよびイリノイのNCSA(Web Browserの発 祥の地としても有名)の所長であるFran Berman氏、並びにTeraGridの提唱者でありグ リッドにおけるIETFの姉妹機関であるGlobal Grid Forum(GGF)のCharlie Catlett などを訪問する。また、欧州ではCERN(Webの発祥地でもある)が中心に推進している データグリッドプロジェクトである EU DataGrid/DataTagプロジェクトの調査を行う ために、その責任者のFabrizio Gagliardi氏などを訪問する。さらには、グリッドの ベンチャー企業として、デスクトップグリッドの商用化を行っているサンディエゴの Entropia社、並びにデータグリッドおよびOGSAの商用化を行うバージニアCharlottes ville市のAvaki 社などを調査する。これらの調査をもとに、大規模なグリッドの構築 法並びにそのエンタープライズへの適用性・ビジネスコンピューティングへの可能性・ 並びにわが国が行えるグリッドのおけるR&Dの項目を洗い出す。調査研究においては、 先日発足したグリッド協議会http://www.jpgrid.org/)と有効な連携を模索し、企業 側からの効果的な参加を呼びかける。また、グリッド技術に関心のある企業に対し、 戦略的な支援を提供する。SSRフォーラムの活動方針に従い、我々は、今年度末までに レポートを提供する。さらに、調査結果は全てウェブ上に保存する。


4.調査研究の進め方(共同研究者など)

調査グループ構成メンバー(候補)は以下のようである。

主 査            松岡 聡     東京工業大学 学術国際情報センター 教授

官学側メンバー候補   朴 泰介     筑波大学 計算物理学センター 助教授
                建部 修見   産業技術総合研究所 主任研究員
                竹房 あつ子  お茶の水大学 助手

SSRを通じて、関心のある企業から適切な調査グループの方々を確保する所存である。






A-3:
 個人プロファイルに基づくセキュリティに関する調査研究 
 
東京理科大学
教授  半谷 精一郎

1.調査研究テーマ名

「個人プロファイルに基づくセキュリティに関する調査研究」


2.そのテーマの戦略的意義/位置付け

個人に対する認証技術は、古くから銀行などのキャッシュカード等において日常的に用いられてきた。特に、近年の通信系の発達に伴い、インターネットを介した金融や商取引など、その重要性は極めて重要である。しかしながら、個人特定の方法として用いられるものは、単純な数字列や8文字程度のパスワードが多く利用されている。この場合、他人に推測することを困難にするような文字列が望まれるが、実際に用いられているものは登録者の生年月日や名前等、単純で憶え易い場合がほとんどである。
このような背景のもと、本提案では、従来の文字列によるパスワードに頼ることなく、個人のプロファイルに基づく個人認証およびセキュリティに対して調査研究を行う。これは、指紋や網膜パターンの認識、音声、筆跡、筆圧など、最近注目されてきているバイオメトリックスの分野に対する調査に始まり、個人の好みや振る舞いといった真似することが極めて困難な個人の特性を利用するセキュリティ研究の調査を含む。さらに、どのようにすればこうした個人のプロファイルに関連するデータを保護できるかという安全性に関する調査研究を推進する。
本調査研究では、個人プロファイルに基づく個人認証およびセキュリティに対して、既に実用化された領域における各々の技術の信頼性や使い易さ等についての詳細な調査、また、研究が進められている領域の実現により、これらの認証技術がどのように改善されるかを、独自の研究成果も含めて明らかにする。


3.調査研究の概要

個人プロファイルに基づく個人認証およびセキュリティに関しては、バイオメトリックスにおける様々な研究領域や、個人の好みや振る舞いといった新たな研究領域が存在する。そのため、以下の項目に関して調査研究を行う。

(1) 顔画像、指紋や音声を用いた個人認証
(2) 筆跡および筆圧を用いた個人認証
(3) 個人の好みを特性とした個人認証
(4) 個人の振る舞いに基づく不正侵入検知
(5) 個人プロファイルを利用したシステム
(6) 個人認証時に要求されるヒューマンインターフェース
(7) 個人情報のプライバシー保護のための手段

本調査におけるこれら7つの領域は、研究チームによって調査する予定である。(1)(2)におけるバイオメトリックスの分野における調査は、指紋や音声、筆跡などを用いた個人認証で、既に実用化されている研究の他、代表者である半谷教授らによる筆圧やペンの傾きを用いるリアルタイムな個人認証の研究など、実用化が進められている領域の調査も含む。
また、(3)(4)における個人の好みや振る舞いといった特性に基づく技術は、新たな研究領域であり、個人の好みに基づく画像パスワードの生成や、計算機に対する入力に基づくデータマイニング技術を応用した個人認証など、研究協力者である溝口教授が現在取り組んでいる領域でもある。特に、振る舞いに基づく個人認証は、ネットワークセキュリティにおける不正侵入検知にも用いられるなど、その応用範囲は広大である。
(5)では、これらの技術を実際のシステムで利用したシステムを調査する。このような技術を利用する場合、精度が重要となるため、どのようなシステムに対して、どのように組み込むべきかを明らかにすることは重要である。
さらに、(6)では、個人認証時のセキュリティ強度とヒューマンインターフェースのあるべき姿を丸山氏が中心になって調査するとともに、(7)では個人情報をいかに安全に管理できるかということを、技術面のみならず法律面も含めて、鈴木氏と半谷教授が中心になって調査する。

個人プロファイルに基づくセキュリティ技術やその応用に関心のある企業に対し、戦略的な支援を提供する。SSRフォーラムの活動方針に従い、我々は、今年度末までにレポートを提供する。さらに、調査結果は全てウェブ上に保存する。


4.調査研究の進め方(共同研究者など)

調査委員会構成メンバーは以下の通りである。

  半谷 精一郎  東京理科大学 委員長
  溝口 文雄    東京理科大学
  浜本 隆之    東京理科大学
  丸山 宏     日本IBM基礎研究所
  鈴木 隆雄    池上通信機(元警察庁科学警察研究所副所長)
  斎藤 孝道    東京工科大学
  西山 裕之    東京理科大学
  平石 広典    東京理科大学
  山中 晋爾    東京大学

  その他 企業参加メンバー

調査研究は、大学と企業の研究者によって構成されるメンバーにより遂行される。大学と企業のメンバーは、参加希望と取り、調査研究に関する情報は、メールやウェブを通して収集し、供給する。オンラインでの調査研究報告を行うウェブページは、東京理科大学情報メディアセンターによって保守管理を行い、また、メンバーはそのウェブを通して、直接、情報の追加と回収が可能になる。また、調査研究毎に最終的な報告書を作成し、その報告会を執り行う予定である。


5.参考文献

1. F. Mizoguchi: "Anomaly Detection Using Visualization and Machine Learning", Proc. of the Ninth IEEE International Workshops on Enabling Technologies: Infrastructure for Collaborative Enterprises (Workshop: Enterprise Security), pp.165-170, 2000.
2. S.Hangai, S.Yamanaka, T.Hamamoto, On-line signature verification based on altitude and direction of pen movement, IEEE Internatinal Conference on Multimedia and Expo (ICME'00), Vol.1, pp.489-492, 2000.
3. S.Hangai, S.Yamanaka, T.Hamamoto, Writer Verification using Altitude and Direction of Pen Movement, IEEE ICPR'00, vol3, pp.483-486, 2000.
4. 吉井宗行, 溝口文雄,監査データに対する柔軟な行動のモニタリング,人工知能学会全国大会14回論文集,pp.402-405,2000.
5. Wu Wen and Fumio Mizoguchi, AID: Authentication Interface for the Disadvantaged,コンピュータセキュリティシンポジウム2000論文集,pp.255-260,2000.
6. Hironori Hiraishi and Fumio Mizoguchi, Design of a visual browser for network intrusion detection, IEEE Sixth International Workshop on Enterprise Security (WET ICE2001), PP.132-137, 2001.
7. 平石広典,溝口文雄, 侵入解析用ビジュアルブラウザの設計, 情報処理学会第62回全国大会特別トラック(3)講演論文集,pp.93-96, 2001.
8. 平石広典,溝口文雄, 不正侵入トレース用ブラウザの設計, コンピュータセキュリティシンポジウム2001 (CSS2001), pp.161-165, 2001.
9. 勝田 亮、平石 広典、溝口 文雄, グラフィックパスワードを用いたWeb個人認証システムの設計, コンピュータセキュリティ研究会(CSEC), 2002


6.関連特許

1. 半谷 精一郎,溝口 文雄, 特願2000-223748「認証システム」(筆跡、筆圧に基づく認証システムに関する特許)
2. 溝口 文雄,特願2000-320008「ネットワーク監視システム、及び、そのプログラムを記憶した記憶媒体」(個人のネットワーク利用に基づく侵入検知に関する特許)
3. Wu Wen, Fumio Mizoguchi, Magic Key (Graphical Authentication System) No.60/241329 (米国特許、絵柄を利用した個人認証に関する特許)






B. 国家プロジェクト提案部門

 

B-1:
 環境情報ネットワークリンクと環境情報空間の構築  
 
東京大学 大学院工学系研究科
教授  小林 郁太郎

※ 図表入りプロポーザルはこちら(PDF版)

1.プロジェクト申請予定のテーマ

「環境情報ネットワークリンクと環境情報空間の構築」

キーワード : 環境情報、ネットワークリンク、自立通信端末、情報空間

要旨 : 情報家電やユビキタスで展開を見せるネットワークエッジの拡がりを、自立環境情報端末の実現により飛躍的に加速し、情報家電機器のサービス拡大を支える。家庭内展開から、オフィス・工場、更には自然環境へとエッジの拡大を図り、多様な情報の広域流通と組織横断的な利用を進め、端末仕様の共通化とネットワークインターフェースの普及を推進する。人工・自然環境情報のネットワークへの大量流入と利用ビジネスの展開により、21 世紀の情報化社会を支えるポストIP ネットワークの自己形成と構造変革の端緒を拓く。


2.プロポーザル概要

(1) 背景
パーソナルコンピュータ(PC)や携帯電話、あるいは、それを操作し情報の発信と受信を行う人間は、従来の通信ネットワークの構成要素であり、ネットワークの一端末としての位置付けであった。ネットワークが家庭やコミュニティー更には自然環境へと浸透し,ネットワーク“先端”に組み込まれたセンサや各種端末が自立的に情報を発信する時代になると、従来は、自然環境や人工環境が“発信”してもそのまま見捨てられていた、いわば、「環境情報」ともいうべき多様な情報がネットワークにつなぎこまれ利用されることになる。ネットワークのコントローラである携帯機器が環境情報を受信しネットワークを通して各種端末を操作する司令塔の役割を担うことになる。個人が携帯するネットワークコントローラと、自然環境や人工環境に埋め込まれネットワーク化された不特定多数の自立端末で構成される二極構造をもった、いわば、「環境情報ネットワーク」とも呼ぶべきシステムが必要となる。

(2) 概要
通信ネットワークのエッジは、従来、通信端末やルータからコンピュータといった通信専用端末で占められ、情報の収集と発信のツールとして位置付けられてきた。情報家電やユビキタスの概念に代表される流れは、ネットワーク端末の拘束を超えて、ユビキタス端末をネットワークの司令塔に、情報検索・発信から各種センサの利用、端末の遠隔制御へとネットワーク空間を広げようとしている。
人が携帯するユビキタス端末も家庭内に配置される情報家電端末も、いずれも人間の管理化におかれるため運用上さしたる障害は見当たらない。しかし、ネットワーク空間が生活空間に存在する各種の物品、たとえば、書籍や薬品さらには衣類や食材へと広がり、これらの物品情報のネットワーク空間への取り込みが始まると、従来の端末技術や情報家電の範疇の技術では扱えない。
自然環境であれば,水田の温度センサやがけ崩れ検知器であり,家庭環境では窓の開閉状態センサや警報器など、発信機が埋め込まれた自立端末となる。システム構築のためには、シンプルで高信頼なネットワークが求められ、端末も個別配線や電源供給の心配無しに自然環境に多数かつ容易に設置可能なものが求められる。自立環境情報発信端末としては、自家発電機構とパワーマネージメント機能を備え、無線の利用により個別の配線を必要とせず、安価で信頼性の高いものが求められる。この目的にはインターネ
ットやイーサネットで使われるアドレス形式やプロトコルは重すぎることになり、無線の変復調方式もパワーマネージメントに適したシンプルで効率的なものが求められる。
本研究において環境情報をネットワークにリンクしネットワークエッジを人工環境から自然環境へと浸透させる自立環境情報発信端末の実現、環境情報を有用な形で提示するための環境情報空間の構築、アクチュエータからロボットにいたる環境への操作や働きかけのための機器制御への環境情報空間の利用を重点課題にして、環境情報ネットワークリンクと環境情報空間の構築を目指す。

(3) 具体的なアプローチ
(a) 第一段階として、家庭環境へネットワーク“先端”を浸透させるためには、そこで使われる自立端末は容易に設置可能で,ネットワーク化できること、小型で信頼性が高いことなどが求められる。たとえば、窓の開閉状態センサでは、既存の窓に小さな端末を取り付けるだけで、信号の配線も電源の配線もなしに窓の開閉状態の情報がネットワークに発信されることが求められる。自立端末は電源系,センサ系,伝達系,制御系から構成され,無保守で10−20年動作することが期待される。
電源系として太陽電池と2 次電池を用いた構成が有望であるが、室内利用では直射日光を利用できず、屋内の照明も夜間数時間にわたって期待できない中で、センサ系と送信系を含めた装置全体のパワーマネージメントにより、必要な情報を必要なときに発信できる性能の実現可能性の検証を行う。室内温度のように常時発生する情報もあり、窓の開閉センサのように状態変化時に間欠発生する情報もある。発生した情報は直ぐにネットワークへ発信の必要なものから、一時蓄積後送信間隔に合わせて発信すれば良いも
のまで多様な形態がある。利用者にとって必要な情報を取得し、必要なタイミングでネットワークに発信することが、パワーマネージメントの観点からも重要になる。

(b) 環境から発生する情報に対して自立端末がネットワークに発信できる情報レートは、電力供給部からの時間あたり平均エネルギー供給量と通信部のビットあたりの消費電力で決定される。温度測定や窓の状態センサあるいは火災/過熱警報機などの応用例ごとにセンシングに必要な動作周期が異なる。センサの動作周期とは独立に、送信部の動作周期や動作頻度も応用例ごとに異なる。たとえば、窓の開閉センサでは、ある周期でセンシングした結果、状態変化が無ければ送信の必要は無い。逆に、長時間状態変化無しが続けば、センサと送信装置の動作確認信号を発信する必要がある。二段階のスリープ機能により自立環境情報端末の実現を狙う。

(c) これまでに作成したプロトタイプをベースに自立環境情報端末に要求される機能を仕様化し、チップ化の可能性を探る。温度、近接感知、照度等の基本センサを内蔵し、通常の住環境下でエネルギー補給無しに半永久的な使用を前提に送信部は微弱電波により、近隣のパソコンに直接通信リンクを張ることが出来るものとする。プロトコルは独自のシンプルな形式とし、端末のIDとセンサ情報をフレームの中に配列する。

(d) 自立環境情報端末のネットワークへの接続、環境情報収集実験を進め、ネットワークエッジの人工環境・自然環境への拡大・浸透における本端末の有効性・フィージビリティの検証を進める。加えて、特定の目的をもたずにネットワークに発信され収集される環境情報の表現形式として環境情報空間の構築を目指す。目的に応じたキーワード検索が有効とはいえない環境情報のデータベース化とこれを支える環境情報ネットワークの備えるべき機能の洗い出し、その実現技術の開発が長期的課題となる。

(4) システム構成の具体例
(I) 短期目標
(a) 家庭内展開: 本試作端末は照度や温度のセンサ、近接センサなどを内蔵しており、センサ追加用の端子も備えている。窓やドア、居間のソファーやテーブルなど好みの場所に設置することができる。窓の開閉、照明のオンオフ、室内各所の温度の管理など多岐にわたるセンシング項目のネットワーク化を自由に設定できる。
窓の開閉情報を集約するアプリケーションプログラム(AP)を親機やパソコンに装備することで防犯システムが構築できる。照明やガス等のオンオフ管理を加えれば「お出かけ安心システム」に早代わりする。外出前に走り回らずとも、玄関先から携帯電話でコールすれば気になるチェック項目の確認が終わる。外出後の消し忘れ不安の解消にも役立つ。
複数の温度情報を空調システムに連携させて、室内の温度分布を管理することも容易になる。胸につけた温度センサの利用で、利用者の周囲を適温に保ち、音響センサを加えて、TVやステレオ装置のレベルとバランスを利用者の位置や向きにあわせて調節するなどのきめ細かい制御が可能となる。植木鉢の湿度や水槽の温度等趣味の計測も自由にシステム化できる。
本端末の家庭内利用では火災警報から趣味の測定にいたる多様な応用が可能である。パソコンや導入の見込まれる情報家電機器との連携により、更に多面的な応用の展開が見込まれる。今後、本端末の性能向上に加えて、種々のアプリケーションに対応可能なソフトウェアの充実、IPネットワークや情報家電機器との標準インターフェースの設定などが必要となる。

(b) オフィス・工場内展開:生産現場では、アセンブルラインの変更に伴いセンシングや警報ネットワークの再構築が必要となる。本端末によるネットワーク化では、通信線、電源線の再配置が不要となる。随時必要な個所に添付することで、機械の過熱や異常振動などの警報・監視ネットワークが容易に実現できる。
オフィスや生産現場への応用は、端末数が膨大になり管理するアプリケーションソフトも規模の大きなものとなるが、家庭内応用と比較してコスト面では大幅に要求レベルが緩和される。安全に関わる項目では複数端末の配置など信頼性確保の為の方式的バックアップも重要となる。

(II) 中・長期目標
(a) オフィス・工場内展開:生産ラインに装備される各種センシング端末がネットワーク化されるに連れて、当然のこととして、情報の部内利用、部外利用が始まる。部内では従来からの安全管理や生産管理に加えて、温度や湿度、明るさ、騒音や振動などきめ細かな環境制御が可能となる。一方、情報の外部利用は当初厳しい制限を受けることが予想される。しかし、生産物の製品名とロッド番号を標識として、原料や製造日付などの情報をネットワークに発信できれば、部品・製品のDNA情報として蓄積利用できる。オープン化が進んで作業環境や生産設備の稼動状況などの情報も発信されれば、組織横断的な管理情報の集約が可能となる。
多項目にわたる一見すると重要でもなく秘密でもない多様な情報がネットワークに発信され、学術的、商業的、工業的側面からの多様な情報利用が進むことになる。例えば、工場に納入された機械のキーデバイスの温度を、製造会社が常時ネットワークを通して監視できれば、計画的な遠隔保守につながる。自動車ではPHSやエンジンに内蔵されたメモリーを通してこの種の情報の定期取得が既に試行されている。工場内機器から始まり家庭内の細かな備品の定期情報取得と管理が、ワンチップ化された本端末の応用で実現していく。

(b) 公共の場から自然環境へ:家庭内や生産現場への展開を通じて量産効果によるコストの削減と性能の向上が進むと、駅や広場などの公共の場の各種環境情報を低廉にネットワーク化することが可能になる。路面温度やバス停留所の環境、交差点や横断歩道の状態監視など、商業的な目的から趣味の調査にいたるまでの多くの情報収集と利用が進むことになる。自然環境では学術的な調査から登山や釣り等の趣味の活動に関わる各種の情報収集と利用が展開し、その規模と多様さは、現時点で予想するにはあまりに広大すぎる。

(III) 目標実現のシナリオ
本プロポーザルでは、情報発信のキーデバイスとなる自立環境情報端末の実現により、比較的展開の容易な家庭内やオフィス・工場内への適用を最初の目標に掲げている。しかし、情報が家庭内やオフィス・工場内に留まらずネットワークを通じて広域展開した時、ネットワーク独自の効用が真価を発揮することになる。一方で、情報流通面での組織横断的な広域展開と、他方、ネットワークエッジのフロンティアである自立環境情報端末の人工・自然環境への深く広い拡がりを進める地域展開とが車の両輪となり、情報の量と多様性を飛躍的に増大させ、その広域流通がビジネス展開を加速することになる。
家庭内や工場・オフィスという使用環境から人工・自然環境への中長期的な展開には、量産技術と幅広い利用に支えられた低価格化や端末からネットワークにいたる機器の仕様とインターフェースの標準化を欠かすことが出来ない。
本プロポーザルの実現により、当面の具体的な応用である家庭やオフィス・工場での利用と普及を進める。加えて、仕様とインターフェースの標準化を進め、広域ネットワークを通じた組織横断的な情報の利用拡大とネットワークエッジの拡がりによる情報の量と多様性の飛躍的な拡大の基盤とする。

(5) 情報化社会へ向けた更なる展開課題
応用例から容易に推察されるように、本計画の展開には、端末の機能向上から、通信プロトコル、情報家電機器やネットワークとのインタ−フェース、アプリケーションプログラムの充実など多くの課題がある。
中・長期目標に掲げた本格的な広域ネットワーク利用への展開を進めるには、家庭内の個々の情報や企業内の個々の情報を公開して、学術的、商業的、工業的利用に役立てる社会的コンセンサスが必要となる。廃棄物規制や部品の再利用に関わる部品・装置のDNA情報の共有・公開など、具体的で差し迫った議論を通じてコンセンサスの落としどころを探っていく必要がある。
ネットワークの機能的な面に絞っても、発信されたアドレス未確定情報のデータベース化、数年あるいは数十年経た後に検索される類の情報の管理・蓄積など多くの課題がある。商業目的から趣味の情報までが行き交うネットワークの中では目的別に情報を整理することなど思いもよらない。一見無目的に飛び交う多様な情報を管理・蓄積する手法は従来のデータベース管理手法とは大きく異なる可能性がある。多様で目的別の整理が難しい情報、多彩で時代により価値の序列も大きく変化する情報の管理・蓄積にはその情報を発生する人工環境や自然環境の内的構造に整合した情報構造の見取り図を必要とする。毎年の気候情報が木の年輪に埋め込まれ、1000 年前の空気中の炭酸ガス濃度が南極の氷柱に埋め込まれる自然の精緻な情報構造に比較すると、情報化を標榜する
現代社会の情報構造の脆弱さには目を覆わざるを得ない。
電話網からIP網へと革命的な変化を経験したネットワークは、無秩序への道を進んだように見える。今後、人工環境や自然環境からの情報大量流入により、ネットワークそれ自身が社会構造や自然環境と調和の取れた構造へと自己形成し成長していくことが期待される。そのための第一歩は、ネットワークエッジの人工環境から自然環境への拡がりの推進と、多様な情報流通とビジネス応用を通してネットワークの変革を推進することであり、本プロポーザルはこの端緒を拓こうとするものである。

(6) 期待される成果と意義
ネットワークエッジの家庭や街頭、更に進んで自然環境への拡大・浸透は、ネットワークの利便性を著しく向上させるとともに、情報化社会の基盤として欠くことが出来ない。情報家電やユビキタス端末の利用による展開が進んでいるが、エネルギー供給やコストを考えると、ポスト情報家電のセンサやアクチュエータのネットワーク化には多くの困難が付きまとう。
本研究では、エネルギー自給型の高信頼自立環境情報端末実現技術の確立により、ネットワークエッジの人工・自然環境への拡大・浸透を革新的に進めると同時に、多数のセンサやアクチュエータの発信する多様で膨大な数の情報を提示し活用するための環境情報空間の提案・構築により、雑多で無目的な形のまま発信される環境情報のデータベース化と従来のキーワード法に代わる新しい検索機能の開拓に道を開くことを狙っている。
これらの技術は単独のコンピュータ上で実現されるものではなく、新しいネットワーク機能、例えば、長期遅延配信や膨大な容量を持つネットワーク内メモリー等の開拓と実現をベースに次世代ネットワークコンピュータへの発展への端緒を拓くものともいえる。


3.申請予定先

TAO 等の産学協同プロジェクト


4. 準備調査の計画

研究調査、技術討論、提案書の作成を進める。研究調査は、OFC,ECOC,ICC 等通信ネットワーク関連の国際会議、また、各種センサ、アクチュエータに関する発表会へに参加して行う。検討会は、NTT,NEC,富士通等通信関連の企業、および、日本を代表する家電メーカ、また、微細な携帯機器に特殊な技術を保持するシチズン等機器メーカの参加を得て、開発ベースで進め、広い応用範囲と多様なサービスを想定した提案書の策定を目指す。


5.メンバー

小林 郁太郎  東京大学工学系研究科
新井 民夫    東京大学工学系研究科
佐々木 健    東京大学新領域創成科学研究科
湯浅 秀男    東京大学工学系研究科
太田 順     東京大学工学系研究科
下平 理輔    NECネットワークソリューション
佐藤 泰雄    富士通パーソナルシステム事業部
八宗 岡正    シチズン技術研究所






B-2:
 モバイル/ユビキタスコンピューティングのための表示技術  
―大画面表示と小画面表示の連携技術―
 
筑波大学 電子情報工学系
教授  田中 二郎

モバイル/ユビキタスコンピューティングのための表示技術―大画面表示と小画面表示の連携技術―


1.プロジェクト申請予定のテーマ

「実世界指向インタフェースにおける大スクリーン表示と携帯端末との連携技術」

キーワード : モバイルコンピューティング、ユビキタスコンピューティング、パーベーシブ コンピューティング、携帯情報端末、大スクリーン表示、携帯電話、実世界指 向インタフェース、情報家電、ヒューマンインタフェース


2.プロポーザルの概要

最近、従来のようなコンピュータに代わり可搬性をもつモバイル端末が注目を 集めている。  コンピュータの表示も従来型のディスプレイから携帯情報端末 (Personal Digital Assistance PDA)や携帯電話などのより小さな端末、 たプロジェクタにより投影されるような大スクリーンへの表示に分化が進んで いくと考えられる。
PDAや携帯電話用の表示については、 今後、ビデオ画像や3 次元アニメーショ ンなどの表示が実用化すると考えられる。また、PDA や携帯電話にはスペース 的な制約から通常のキーボードに相当するものがない。そこでPDA や携帯電話 用の小画面表示や操作のためには、たとえばユーザによるジェスチャー入力の ような、より拡張されたイベントやアクションを取り込むことが重要となる。
また、大スクリーンについても、従来のものよりドット数が数倍から数十倍の 巨大ディスプレイ(Large Format Display: LFD)が使われるようになり、3D ラフィックスなどの利用を含め、今後、教育現場などに急速に普及が進行する と考えられる。LFDの大スクリーンを直接に操作する場合、 通常のマウス操作 では目標物にとどかない。そのため、ユーザの動作やジェスチャーのような、 より拡張されたイベントによるスクリーンの操作を可能とする必要がある。
また、現状では、大画面向けと小画面向けの二種類のコンテンツを別個に作り 出さなければならない。これに対して、ひとつの元となるコンテンツから両者 を生成できるような仕組みがあれば好都合である。すなわち、元となるコンテ ンツに適当な意味記述を付与することによって、小画面向けの省略表示と大画 面用の表示を生成し、操作に関しては、小画面向けの操作機能を備えたプログ ラムと大画面向けの操作機能を備えたプログラムの両方を生成する仕組みがあ れば便利である。
そのための枠組として、XMLの枠組の中で3次元表現とともにイベントやアクショ ンも扱うことのできる枠組を用意する。ビジュアルシステム生成系は次元 パーツをパーシング(認識)し、パーツの間の関係を制約として定義し、それら に対しアクション(動作)を定義することにより、 XMLベースのコンテンツを自 動的に生成する。
ビジュアルシステム生成系を用いることにより、3 次元パーツの変形、組合せ やアニメーションの記述も容易になる。また、ビジュアルシステム生成系は制 約解消に基づき、部品を認識する過程で整形を行なう自動レイアウト機能を持 つ。スケーラビリティのある 3次元表示やアニメーションを実現するには制約 解消系の高速化がシステム実現への鍵となると考えられる。
大スクリーン表示と小画面表示の連携技術については、大スクリーン表示と小 画面表示との間での情報交換に焦点を当てる。たとえば、オフイスや会議室に おいて、各自はPDA で作業をおこない、必要に応じて手近なディスプレイを使 用する。また、学校教育などで、 生徒はそれぞれPDAを持ち、当てられた生徒 は、大スクリーンに回答を表示するなどの連携メカニズムを実装する。


3.申請予定先

応募対象のプロジェクトとしては、NEDOIPATAO等が公募する産学協同プロ ジェクトのうち予算規模が年間数千万の中規模なプロジェクトを複数個、応募 の候補として考えている。
とくにIPAは平成14 年度公募重点分野選択指針にソフトウェア開発公募の重点 分野としてユビキタスコンピューティングをあげている。 したがってIPAはプ ロジェクトの応募先の候補として有望である。また、NEDOについては次世代ヒュー マンインタフェース関連での応募を検討中である。
一つの公募プロジェクトに複数の企業と一緒に応募するのでは予算規模が合わ ないので、各プロジェクト毎に委員会のメンバーのサブセットで応募すること にしたい。また、公募のプロジェクト題目については、プロジェクトの目的や パートナーとなる企業の状況などを考え柔軟に対応したいと考えている。


4.
準備調査の計画

本プロジェクトについては、すでに昨年度「実世界指向インタフェースにおけ る大スクリーン表示と携帯端末との連携技術」として、委員会活動を行なった。
昨年度は5回の委員会を開催し、プロジェクト提案の準備を進めた。 本年度の 5/31には、総務省の産学官連携先端技術開発に三菱電機と筑波大学とで「3 元地図に基づく地域生活支援システムに関する研究開発」という題目で研究提 案を行なっている。
本応募の結果は未確定であるが、すでに提案内容も固まっており、本年度は 必ず予算獲得を実現したいと考えている。
準備調査の具体的な進め方としては、2カ月に一回程度の頻度で委員会を開き、 メンバー間で意見交換や調査報告を行なう委員会方式とする。本年度は最終年 度ということもあり、この一年ですっかり市民権を得たユビキタスコンピュー ティング、パーベーシブコンピューティングの動向についてもしっかりと調査 研究を行ないたい。委員の中から応募プロジェクト毎に参加企業や応募メンバー を選択し、さまざまな組合せで、適宜サブタスクグループを作る。場合によっ ては東大の中川先生のグループなどとの連携を考えたい。〆切の近いプロジェ クトから順にサブタスクグループで検討を積み重ねて行くようにする。


5. メンバー

田中 二郎   筑波大学 電子情報工学系 教授
市村 哲     東京工科大学 片柳研究所 助教授
大澤 範高   メディア教育開発センター 研究開発部 助教授 
久世 和資   日本アイ・ビー・エム 東京基礎研究所 (* 確認中)
椎尾 一郎   玉川大学 工学部 電子工学科 助教授
志築 文太郎  筑波大学 電子情報工学系 助手
細部 博史   国立情報学研究所 ソフトウェア研究系 助手
前原 秀明   三菱電機 情報技術総合研究所
三浦 元喜   筑波大学 電子情報工学系 助手
三末 和男   富士通研究所 ITメディア研究所
安村 通晃   慶應義塾大学 環境情報学部 教授

また、他にも産側で参加希望があれば積極的に受け入れたい。